【私たちの医療について夢を語り、その夢を実現していくメルマガ】
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■◆ ゆめげんクリニック・プロジェクト メールマガジン
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臨時増刊 2008/10/6日号 http://jin-i.com/yumegen
● もくじ
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【1】 特別寄稿 『村の住民を主体としたマラリア啓発活動』
藤田 由布 (ハンガリー国立デブレッツェン大学医学部)
【2】 ゆめげんドア
● 編集後記
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みなさま、こんにちは。
ゆめげんクリニック・プロジェクト事務局の中山です。
本メールマガジンは、「ゆめげんクリニック・プロジェクト」の
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ご登録いただいたみなさま及びパートナー企業・医療機関のみなさま、
そして、当法人事務局スタッフが名刺交換させていただいたみなさまに
お送りしている情報メールマガジンです。
● ゆめげんプロジェクト事務局スタッフ・プロフィール
http://jin-i.com/yumegen/staff
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【1】 特別寄稿 『村の住民を主体としたマラリア啓発活動』
藤田 由布 (ハンガリー国立デブレッツェン大学医学部)
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■ 夏休みにニジェールでマラリア対策
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私は現在ハンガリーで医学生をしていますが、
この夏期休暇の1ヶ月半、西アフリカのニジェールに
行ってきました。
独立行政法人 国際協力機構(JICA)の
「マラリア対策支援技術協力プロジェクト」に
マラリア普及・啓発活動(IEC)の短期専門家として
参加したからです。
このプロジェクトは、
『地域の保健委員会を中心とする
村の住民を主体としてマラリア予防対策を強化し、
同時に医療従事者による治療の質向上も図る』
というものです。
すなわち、村々に蚊帳や薬を与えるだけ
といった主旨のプロジェクトではなく、
住民自らによるマラリアの問題発見・課題抽出・
計画・実施へと導くことに主眼を置いた、いわば
『住民組織強化をとおしたマラリア対策活動』
を主な目的とした支援です。
ここでの私の役割は、啓発活動とプロジェクト広報。
1ヶ月半という任期で溢れんばかりの業務内容に
戸惑いながらも、猛スピードで駆け巡ってきました。
現地での業務を終えた今、心地よい疲労感を感じ、
興奮さめやまぬままハンガリーに戻って
学生生活を続けています。
■ 住民による啓発活動
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マラリア予防についての啓発活動を行う際の
これまでの主なメッセージとしては、
・ 蚊帳の使用
・ 蚊帳の浸潤普及
・ 環境衛生向上
・ 早期発見・適切な治療
などがあげられます。
保健省や援助国・援助機関(ドナー)などの
行政・政策立案担当者によって策定される
マラリア予防の課題としては、
「啓発活動の強化」が頻繁に挙げられています。
啓発活動は重要だ、という認識は存在します。
しかし、実際には、啓発メッセージをメディアで作って配布したり、
省庁の偉い役人がプロジェクトを実施している地域に来て
マラリア予防について話しをするようなパターンが多いです。
すなわち、これらの啓発活動は長年に渡って
水が上流から下流に流れるように
“国・援助機関から住民に対して”
行われてきました。
私は、そのアプローチの中に
住民が持続的にコミュニティ内で予防活動に
コミットするようになるための啓発戦略が
あまり見られなかったのではないか・・・
という疑問を抱きました。
ここで断わっておきたいのは、
行政側が運営する啓発キャンペーンや、
ポスターや紙芝居などの啓発メディアを
否定しているのではないことです。
しかし、だからといって従来の方法を続けても
マラリア感染率の減少は期待できません。
それはニジェールにおいても同様です。
これまでの「啓発活動」を同様に続けてみても、
住民が自ら考えて動けるようになる青写真は
うまく描けません。
違うアプローチが必要だと思いました。
■ 蚊帳がなければ、じゃあどうする
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蚊帳の普及は大事です。
けれども、それだけではマラリア予防が完全とはいえません。
そのことは他でもない、
そこの住民が一番よく分かっています。
深夜まで涼しい外で団欒をするニジェール人にとっては、
夕方から就寝までの5〜6時間ものあいだ肌を
露出することになります。
また、アフリカに多い大家族では
たくさん蚊帳が必要になるわけで、
やはり蚊帳を家族全員分所有している家庭は
多いとはいえないのが現実です。
しかし、現地でよくみられる紙芝居などで
連呼されるメッセージは
単に
「蚊帳を使おう」
です。
住民も紙芝居のストーリーはよく知っています。
このような現状で、果たして人々の行動変容に
影響を与えることができるのでしょうか。
では、住民らで出来る予防対策とは何なのだろう、
何ができるんだろう、という議論を
住民と一緒に考えてみてはどうか、
と考えました。
実際、マラリアの問題認識は、
個々の村々や世帯によって様々に違い、
村や世帯によってマラリア予防に
コミットする度合いも違ってきます。
したがって、住民によるマラリア予防の取り組みは、
コミュニティによってさまざまです。
住民が持続的にコミュニティ内で
予防活動にコミットするようになるためには、
住民自らが村の問題を抽出し、
それに対して「この活動なら自分たちで出来る」
という活動を自ら選定することが重要だと考えました。
そこで、このプロジェクトでまず取り組んだのは、
蚊帳普及のポスターやビデオなどのメディアツールの制作でなく、
“住民が主体的”かつ“住民が実行できる”マラリア予防活動
の立案と実施の支援です。
■ 非識字者を対象とした活動計画研修
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住民がマラリア予防にコミットする動機づけとなる仕組みを
現地のスタッフらと考え、各村の保健委員会メンバーを
対象にした活動計画研修に取り込みました。
しかし、非識字者を対象とした研修は容易ではありません。
研修などの集まりでは、比較的発言力の大きい人ばかりが
参加してしまい、おとなしい人や女性が
なかなか参加できない、つまらない研修になってしまいます。
そこで考えたのが「絵の活用」。
マラリアにまつわる10数枚の簡単な既存の絵を使い、
住民が絵から連想する自分のコミュニティや家族や
個人のマラリアの問題を自由に発言し、
これらの問題から
「これはコミュニティが取り組む問題だ」
などと議論を重ね、その議論を基に、
自分達で取り組める活動を特定して
自ら立案・計画することを
導いていくことにしました。
また、絵を使うことによって、研修も活気づきます。
普段あまり発言力のない住民や
非識字者といった教育的弱者らの参加を促し、
彼らの声を引き出しやすい環境づくりが配慮できます。
これは、ブラジルの教育学者パウロ・フレイレが提唱するように、
弱者の声を引き出すための絵の活用法であり、
普段発言することがなかった住民も、
絵から連想される問題を個々の背景や認識と結び付けて
自由に意見発言することができるようになるのです。
■ 住民によるマラリア予防活動
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現在、上記の活動計画研修が進められ、
これから住民による活動が少しずつ芽を出す段階です。
ある村では、お金を出し合って蚊帳を買う活動、
ある村では、患者を病院に搬送する援助システムが計画されたり、
ある村では、ニームなどのローカル資源を利用した防虫対策の活動
などが動き始めています。
今後、これらの住民の活動をいかにモニタリングしていくか、
という課題があります。
実際に我々支援する側は、
住民によるアイディアだけに頼っているだけでなく、
住民から「村全体の参加を施すためにどうすればいいか」とか、
「よい対策方法を教えてほしい」という相談も受けます。
そこで、いかに住民ができる活動のアイディアについて
情報交換を進めるかについてはラジオを活用しました。
住民が中心となってマラリア感染の問題や予防活動に関する
議論を進めるラジオ番組をはじめたのです。
ある村による予防活動のアイディアや問題解決策が
ラジオを通じて紹介され議論されると、
その番組を周辺の村が聴くことにより、
活動の情報交換・共有することが促進されることを
期待しています。
■ 住民のよる持続的な啓発活動って、何?
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マラリア予防の効果的で持続的な住民による啓発活動は、
コミュニティ内の「内なる変革」
つまり、「自分達でマラリア予防できるんだ」
という住民による主体的な取り組みを奨励することに
重要性を感じざるをえません。
住民らによって洗練された問題に対する解決策や活動計画は、
住民によって生み出された「啓発メッセージ」となり、
さらに説得力を増して、コミュニティー内へ発信されます。
従来行われてきた外部者による啓発活動ももちろん大切ですが、
これは「外部からのメッセージ」でとどまる場合が
多かったのではないでしょうか。
コミュニティ内で発信されたメッセージならば
耳を傾ける住民も多いはずです。
外部者の声には影響を受けないが、
隣人の言っていることには真実味をもって話を聞こうとするのは
人間の自然な慣習なのかもしれません。
そして、それは、IECの根本的な目的である
「行動の変容」に最も影響を与える「クチコミ」の
チカラなのでしょう。
予算が最も先にカットされやすい項目の啓発活動
・・・たかが啓発、しかし、されど啓発。
村のリアリティ(現実生活)に見合った啓発活動は、
住民参加で議論し、自ら生み出していくプロセスに、
最も効果的で持続的な啓発メッセージが創出されるのだろう、
そう私は信じ、マラリア撲滅の日を夢みて
このプロジェクトに関わっています。
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◆ 寄稿者:藤田由布氏 プロフィール
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1975年 大阪府生まれ、河内長野育ち
1998年 関西大学部総合情報学部卒
大学では久保田ゼミにて「開発コミュニケーション」を学ぶ。
せかい市民ボランティア、カンボジアに学校を贈る会で活動
1997年 青年海外協力隊・9/2視聴覚教育隊員・ニジェール3年間赴任
ギニアワーム撲滅活動と出会い、寄生虫に恋をする
2000年 御徒町某NGOビルで自然エネルギー市民フォーラムの活動
2000年 JICA嘱託勤務
2001年 ロンドン大学教育研究所、ヘルスプロモーション修士号取得
一夫多妻制女性の健康、遊牧民と学校教育をテーマに学ぶ。
途上国の保健教育ポスターが村住民にいかに理解されているか、
に疑問を抱く。ビジュアルリテラシーと教材開発が修論テーマ。
2002年 カーターセンターギニアワーム撲滅対策コンサルタント就任
ニジェール、トーゴの感染村ほぼすべてを闊歩した
2004年 アイシーネット株式会社に入社
ニジェールみんなの学校プロジェクト、ラオスの公共投資事業
運営監理能力向上プロジェクトなどJICA技術協力プロジェクトで
JICA専門家
2006年 退職後、31歳にして予備校にて現役高校生と肩を並べて受験勉強
2007年 ハンガリーに渡り、国立大医学部に入学し現在に至る。
2008年 夏期休暇中にJICAマラリア対策支援のIEC専門家として働く。
* IEC:Information Education Communication
(国際協力の分野では「普及・啓発活動」のことを指す)
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【2】 ゆめげんドア
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今回の特別寄稿と関連のあるウェブサイトをご紹介します。
■ 藤田由布「ギニアワーム撲滅計画」
http://square.umin.ac.jp/botiboti/houkoku/2004.9gatu1.pdf
■ ニジェール「マラリア対策支援プロジェクト」
http://project.jica.go.jp/niger/0605408/
■ カーターセンター
http://www.cartercenter.org/
■ JICA(Japan International Cooperation Agency)
独立行政法人 国際協力機構
http://www.jica.go.jp/
■ インターネット放送:世界は今 JETRO Global Eye 特集:
「アフリカと共に ‐進出日系企業のCSR活動(2007年9月8日)」
http://www.jetro.go.jp/tv/internet/20070910270.html
■ 住友化学のアフリカ支援
http://www.sumitomo-chem.co.jp/csr/africa/
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● 編集後記
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今回の臨時増刊号は、いかがでしたでしょうか。
たくさんの示唆を含んでいて、
とても読み応えがあったのではないでしょうか
時間や労力、コストは多少かかろうが、
住民自らで議論し、自分たちの現実に則した
マラリア予防の方法を模索していく支援を行わなければ、
結局、活動は長続きしないし効果も期待できないでしょう。
『 Ownership(オーナーシップ):主体性 』
国際協力の世界では、プロジェクト計画立案に
この一言がないと認められないというほどのキーワード。
日本の医療について議論をする際にも必要な気がします。
さて、今回、ご寄稿いただいた藤田由布さんとは
今年の7月初め、記事にあるニジェールに専門家として
赴任される前にご縁をいただきました。
由布さんとお話ししていて感じたのは、
夢を自分の言葉で語れる人、
その夢が現実逃避の夢ではなく、
それぞれの場所で与えられた役割を誠実に尽くしてきた上で
その延長線上にある人
次々と新しい目標を見出し、それに向かって
誠実に努力を続けている人
仕事に対してとても厳しく、
どんな仕事も楽しむことができる人
ユーモアたっぷり、女性としてはもちろん、
人間としての魅力にあふれる人
当に『プロフェッショナル-仕事の流儀』の人だな、と。
短い時間でしたが、すぐに意気投合し、
医学部を卒業し、臨床研修後の就職先として
「“ゆめげんクリニック ニジェール診療所院長” を是非!」
と、お願いしてきました(笑)。
能力ではなく、経験ではなく、仕事に対する姿勢を見て
共に歩み、成長していきたい、と思える方です。
それでは、今回も最後までお読みいただき、
どうもありがとうございます。
次回もどうぞお楽しみに!
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